古代インドの叡智が凝縮された「ジョーティッシュ」は、サンスクリット語で「光の科学」を意味し、何千年もの間、人々の人生の道標として機能してきました。西洋占星術とは異なるアプローチと独自の体系を持つこの東洋の叡智をご紹介します。
ジョーティッシュの起源と歴史
インド占星術の歴史は紀元前3000年以上前に遡り、ヴェーダ文献の一部として発展しました。ジョーティッシュは「ヴェーダーンガ」(ヴェーダの六支)の一つとされ、古代インドの聖なる知識体系を構成する重要な要素でした。
古代のリシ(聖者)たちは、宇宙の法則と人間の運命の関連性を深く研究し、その知恵を「ブリハット・サムヒター」「ブリハット・ジャータカ」などの古典的なテキストに残しました。これらの文献は、今日でもジョーティッシュを学ぶ者にとって重要な参考資料となっています。
ジョーティッシュの三つの主要分野
インド占星術は伝統的に三つの分野に分けられます:
- ガニタ(天文計算):天体の位置や動きを計算する数学的基礎
- サムヒタ(世界占星術):国や地域、自然現象に関する予測
- ホラ(個人占星術):個人の出生図と運命に関する解釈
現代では、多くの人が「ホラ」、特に「ジャータカ」(出生占星術)に興味を持っています。これは個人の性格、人生の出来事、才能、課題などを分析する分野です。
27のナクシャトラ:月の館
ジョーティッシュの大きな特徴の一つは、27(または28)のナクシャトラ(月宿)のシステムです。これは黄道帯を27等分し、月がおよそ一日で一つのナクシャトラを通過するという考えに基づいています。
各ナクシャトラには、固有の象徴、性質、神話、支配神が関連付けられています。例えば:
- アシュヴィニ:双子の医師神が支配、癒しと再生のエネルギー
- ローヒニ:創造神ブラフマーの妻が支配、豊かさと美の象徴
- マガ:祖先神ピトリが支配、王族的な性質と威厳
- チトラ:宇宙の建築家ヴィシュヴァカルマが支配、芸術的才能と美的センス
- ジェースタ:インドラ神が支配、パワーと権威を象徴
人が生まれた時のナクシャトラは、その人の基本的な性質と人生の方向性に大きな影響を与えると考えられています。

ラーシ:12の星座
ジョーティッシュにも12の星座(ラーシ)があり、西洋占星術の星座とほぼ対応していますが、解釈に違いがあります:
- メーシャ(牡羊座):火のエネルギー、活力、先導者
- ヴリシャバ(牡牛座):地の安定性、忍耐、富
- ミトゥナ(双子座):風の二重性、コミュニケーション、適応性
- カルカタカ(蟹座):水の敏感さ、養育、直感
- シンハ(獅子座):火の権威、創造性、忠誠心
- カニャー(乙女座):地の分析力、奉仕、完璧主義
- トゥラー(天秤座):風のバランス、調和、パートナーシップ
- ヴリシチカ(蠍座):水の強度、探求、変容
- ダヌス(射手座):火の拡大、哲学、冒険
- マカラ(山羊座):地の野心、規律、責任
- クンバ(水瓶座):風の革新、人道主義、独立性
- ミーナ(魚座):水の霊性、共感、犠牲
惑星(グラハ):宇宙のエネルギー
ジョーティッシュでは、9つの主要な天体を「グラハ」(惑星)と呼びます:
- スーリヤ(太陽):魂、自我、父親、権威
- チャンドラ(月):心、感情、母親、快適さ
- マンガラ(火星):エネルギー、勇気、兄弟、競争
- ブダ(水星):知性、コミュニケーション、分析力
- グル(木星):知恵、拡大、教師、子供
- シュクラ(金星):愛、美、芸術、人間関係
- シャニ(土星):規律、制限、試練、高齢者
- ラーフ(北交点):欲望、物質的野心、幻想
- ケートゥ(南交点):解放、精神性、過去世の記憶
これらの惑星は、単なる天体ではなく、意識を持った存在として扱われます。各惑星には特定の性質、色、金属、宝石、曜日などが関連付けられています。
ダシャー:惑星期間システム
ジョーティッシュの独自の特徴として、「ダシャー」と呼ばれる惑星期間システムがあります。最も一般的なのは「ヴィムショッタリ・ダシャー」で、120年の全サイクルを9つの惑星に割り当てます。
各惑星は特定の年数(たとえば、太陽は6年、月は10年、火星は7年など)の期間を支配し、その期間中はその惑星のエネルギーが特に強く影響します。このシステムにより、人生の異なる時期にどのような経験や機会が訪れるかを予測することができます。
ジョーティッシュの占星術チャート
インド占星術では主に三種類のチャート(クンダリ)を使用します:
- ラーシ・チャート:基本的な出生図、太陽系から見た惑星配置
- ナヴァムシャ・チャート:「第9調和」、結婚や精神的発達を示す
- D-チャート:様々な生活領域を示す派生チャート群(全部で16種類)
これらのチャートを組み合わせることで、より詳細な人生の分析が可能になります。
ハウス(バーヴァ):人生の12領域
ジョーティッシュにも12のハウス(バーヴァ)があり、それぞれが人生の特定の領域を表します:
- 第1ハウス(ラグナ):自己、外見、人格
- 第2ハウス(ダナ):家族、財産、言葉
- 第3ハウス(サハジャ):勇気、コミュニケーション、兄弟姉妹
- 第4ハウス(スカ):母親、家庭、心の平和
- 第5ハウス(プトラ):子供、創造性、教育
- 第6ハウス(ロガ):病気、負債、敵
- 第7ハウス(ジャヤ):配偶者、パートナーシップ、他者
- 第8ハウス(マラナ):変容、秘密、遺産
- 第9ハウス(バーギャ):運、教師、高等教育
- 第10ハウス(カルマ):キャリア、社会的地位、父親
- 第11ハウス(ラバ):収入、願望、友人
- 第12ハウス(ヴャヤ):損失、解放、spirituality
ヨーガとドーシャ:惑星の配置パターン
ジョーティッシュでは、惑星の特定の組み合わせや配置が「ヨーガ」(吉兆な組み合わせ)または「ドーシャ」(挑戦的な組み合わせ)を形成します。
例えば:
- ガジャ・ケサリ・ヨーガ:木星と月が好位置にある場合、幸運と成功をもたらす
- ラージャ・ヨーガ:王のような地位や権力を示す複数のパターン
- マンガラ・ドーシャ(別名:クジャ・ドーシャ):火星が特定のハウスに位置する場合に結婚生活に挑戦をもたらすとされる
これらのパターンの分析は、ジョーティッシュの実践者にとって中心的な作業です。
レメディー:調和をもたらす方法
ジョーティッシュの大きな特徴は、惑星のネガティブな影響を緩和するための「レメディー」(対策)システムです。これには以下が含まれます:
- マントラ:特定の惑星に関連する聖なる音節や詩の詠唱
- 宝石:特定の惑星に関連する宝石を身につける
- プージャ:惑星の神性に対する儀式や祈り
- ダーナ:慈善的な寄付や奉仕
- ヤントラ:神聖な幾何学模様の瞑想
- 薬草:特定の植物や薬草の使用
これらのレメディーは、運命を「変える」のではなく、惑星のエネルギーとより調和した関係を築くことを目的としています。
現代社会におけるジョーティッシュ
今日、ジョーティッシュはインド亜大陸で広く実践されているだけでなく、世界中で関心が高まっています。多くの西洋占星術師もジョーティッシュの技術を学び、両方のシステムを組み合わせた「ヴェディック占星術」というハイブリッドなアプローチも生まれています。
ジョーティッシュの特徴:
- カルマと輪廻の概念に基づいている
- 恒星黄道座標系(ニラヤナ)を使用する(西洋の移動黄道座標系と異なる)
- 惑星の「救済」や調和のための具体的な方法を提供する
- スピリチュアルな成長と自己実現のためのツールとして機能する
結び:光の道を照らす古代の智慧
ジョーティッシュは単なる運命予測の手段ではなく、自分自身と宇宙とのつながりを深く理解するための体系です。それは私たちの魂の旅の地図を提供し、自己実現と精神的成長のための道筋を示します。
古代インドの聖者たちが星々の中に見出した叡智は、今日でも私たちの人生に光を当て続けています。ジョーティッシュの鏡を通して自分自身を見ることで、私たちは自分の強みを活かし、弱みを克服し、より調和のとれた充実した人生を送るためのガイダンスを得ることができるのです。